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ORPG・浮島サイド

エレさん家の話・サイドA 下




「…………………呪っちゃうヨ?」





 ひぃ。
 アニキは声にならない叫び声を上げる。
 そしてナイフを取り落とした。
 目が笑っていない。
 目が笑っていない。
 目が笑っていないっ!!!
 本気で呪われそうな気がする。死ぬよりももっと恐ろしい自体が待ち受けている気がする。
 つーか、真っ当な人間?
 そもそも、本当に人だろうか。
「おい」
「ぎゃあ!!」
 後ろからドスの利いた声で囁かれ、アニキは硬直する。
「………何をしている、レゼ」
 ため息混じりの声。
 出来れば振り返りたくない。
 なにやら麝香のような匂いがする。危険な香りだ。
 黒ずくめの彼がぱっと明るい笑みを浮かべる。少女もまた天使の微笑みを浮かべた。
「あ、にーやん、お帰りー」
「にーに、ご用、終わったの?」
「ああ……それで、何をしているんだ?」
「おじさんにね、高い高いをして貰っていたの」
「そー、暇だからあそんでもらっていたんだヨ★」
「遊んで貰っていた?」
 不審そうな声。
 アニキはおそるおそると言う風に振り向く。
 自分の視線から少し高い位置に男の瞳がある。それは二人同様に赤紫の瞳をしていた。険しい目つきをしている上に、体格も良く妙に強そうだ。
 だが、こういう輩は見かけ倒しと相場が決まっている。
 強気に出ようとした矢先、男が小さく息を吐く。
「……そうか、弟たちが随分と………」
「にーやん、笑顔、笑顔★」
「ああ、そうか」
 男は弟に言われて笑みを浮かべる。
 彼にしてみればおそらくにこりと微笑んだつもりだったのだろう。だが、後ろ暗いところがある上に、弟で散々苦戦させられたアニキには違う風に見えた。
「弟たちが随分と世話になったようだな」
 擬音語にして、ニヤリ。
 加えてタイミング良く夕陽が背にあるために逆光。

 ……殺される。

 アニキはその瞬間そう思った。
「す、す、スミマセンでした。妹さんお返しします! 有り金、置いていきます。何なら身ぐるみ全部剥がれますっ」
「何を言って……おいっ!」
 無理矢理財布を手にねじ込まれ、彼は戸惑った声を上げる。
 アニキは土下座をし、そのままものっそい勢いで後退していく。そして地平線の彼方に見えなくなった。
 様子を見てけたけたと弟の方が笑う。
「にーやんがカツアゲしたみたいだネ」
「………またか」
 兄はため息をつく。
 どうやらこういう事は良くある話らしい。
 アニキを見送ってたサブはやれやれという風に頭を下げる。
「すんませんね、アニキ思いこみ激しくて」
「兄弟なのか?」
「いや、アニキはご近所さんっすよ。最近俺が引っ越してきたんすけどね。因みにアニキは本名で、あれで今年19歳です」
「うわぁ、お先真っ暗な老け方だねぇ★ セッカたんと足して梅割にすれば丁度いいのにね」
「セッカさんは焼酎じゃない。……すまないが、アニキさんに財布を返しておいてくれないか」
「かまいませんけどね、いいんすか? 今回の事はアニキが全面的に悪いんで、慰謝料代わりに持っていってくれてもいいんっすけど」
「………………状況は何となく飲めたが、そもそも、コレが自体をややこしくした可能性も否定できない」
 兄は弟の頭に手を置く。
「えー、にーやん酷いナー。僕ってそんなに信用ない?」
「信用はするが……面白がってかき回していないと、誓って言えるか?」
「えへ★」
「………。……ともかく、財布を置いて行かれたところで迷惑だから持ち帰ってくれないか。それと申し訳なかったと伝えて欲しい」
「あ、はい、了解しました。いや、ニーヤンさんっていい人っすねぇ」
「……それは本名ではない」
「あれ、じゃあ、ニーニさんっすか? どっちでもいいけど。俺、アニキの所に戻りますね。ほっとくとまたとんでもない‘悪いこと’しようとして失敗していそうで」
「何か随分と気にするねぇー★ 惚れた弱みってヤツぅ?」
「あれ、良く分かったっすね。アニキが女の人だって」
「………え?」
「おんっ……!」
「………お姉さん?」
「まぁ、生物学上一応女ってだけっすけどね」
 仮にも惚れている女に言う言葉ではない台詞をさらりと言ってのけてサブは頭を下げてどう見ても三十路近くのオッサンであるアニキ(19歳♀)が去った方向に向かって走り出す。
 その背を見送ってエレさんちの次男はしみじみと呟いた。


「人生って何だか切ないねぇ………」
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