オリキャラRPG
緋と藍と 2
戦場に出ると、一目で分かった。
鮮烈な赤い髪。それは炎のようでもあり、血のようでもある。その瞳は常磐色をしている。冬になっても枯れることのない常緑樹と同じ、永遠を思わせる緑。
その男がツィーダルでなければ、他の誰がそう呼ばれていると言うのだろう。
(綺麗な、男……)
男を綺麗だと感じるのは珍しいことだ。これだけ長い間生きていても、滅多にそんな風に感じることはない。
精悍な顔立ちは美しいと呼ぶよりは男らしいと呼ぶ方が相応しいだろう。
しかし、沸き立つような激しい生命力がある。それが何よりも美しいと感じた。
神であることすら疑いたくなるような男だ。
「異端の神」
彼女は呟く。
その呟きを聞き取ったのか男の視線がこちらを向いた。
それがそのまま戦いの合図になった。
彼女が斬りかかると同時に男も動いた。それは反射的に防御に走った動きではない。相手も見た瞬間感じたのだ。ちりりと走る電撃のようなものを。それは攻撃せよ、と囁くような声。
けして抗えない、本能。
「!」
がつん、と激しい音を立てて剣が交わる。
攻撃と、攻撃。
交わった先に見える緋の色。
その色を見て、意識が高揚する。まるで百年ぶりに恋人に会ったような気分だった。いや、何千年も待ち焦がれた者に出会った気分だった。
この瞬間を、
「……待っていたわ」
激しいぶつかり合いの後、互いに弾き飛ばすように間合いをとった。
強い。
本能で分かる。
今まで戦った誰とも違う。
彼は自分と同種。戦いを好む性を持っている。
それは相手を殺したいと願う感情とは違う。相手を打ち負かし自分の元へ平伏す姿を見たいわけでもない。負けるつもりなど毛頭無いが、負けたくないと思う感情とはまた違う。
それはギリギリの緊張感。
ほんの僅か判断を誤るだけで自分の首は吹き飛ぶだろう。その張りつめた空気が、何より自分を興奮させる。
「貴方に、ずっと、恋い焦がれていた」
その言葉は恐らく彼に届かなかっただろう。
戦場の喧噪が彼女の声を男に届く前にかき消してしまった。
でも、いい。
彼だって分かっているはずだ。
(だって、こんなにも、楽しい)
剣が再び交わる。
どちらが先に取るか。窺うように繰り返される剣と剣との衝突。
男は僅か笑んでいるようにも見えた。
戦いが楽しくて仕方がない。この戦がいつまでも続けばいいのにと、望んでいるようにさえ思えた。
それは彼女自身も同じだった。
せっかく見つけたのだ。
一瞬で終わってしまうのはあまりにも勿体ない。
何度も彼の剣とぶつかり合うと、まるで舞を踊っているような錯覚を味わうほどに何度も何度も剣舞が繰り返された。
それは実力が同等の者でないとなし得ない、最高のぶつかり合い。
「本当に、貴方、神なの?」
届いたのか届かないのか分からない。
赤い髪が舞う。
鮮烈なほどの深紅。
それが空の青に強く輝いた。
攻撃が来る。
思った瞬間彼女もまた攻撃を繰り出した。
どちらが早いのか。
分かる前に、腹部の辺りが激しく燃え上がった。
彼が笑う。
叫ぶことも忘れ、彼女もまた笑っていた。
可笑しかった。
彼女の剣もまた彼の手を鋭く切り裂き、鮮烈な赤を宙に散らしていた。
心臓を抉るつもりで繰り出した彼女の剣は、ツィーダルが交わした為なのか、それとも、自分自身が彼との決着を躊躇ったためなのか、留めを刺すことを躊躇うように確実に逸れていた。
「終わらないわ」
彼の剣もまた彼女の致命傷を避けるように、むき出しになっている腹部を抉るのに留まった。
「まだ、決着は付いていないから」
周りの音が戻ってくる。
煩い。
これでは自分の言葉が、彼に届かない。
「何度でも巡り会うわ。どちらかの命が尽きて、果てるまで」
だって、貴方と私は同じ戦いを好む種族だもの。
そこまでの言葉が言えただろうか。
鮮烈な痛みが意識を朦朧とさせる。
致命傷に近いほど抉られた傷。
まるで全身に炎が入り込んだような鮮烈な痛み。
ちりん、と鈴の音が鳴った。
そこから先は余り覚えていない。
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